Antinews (GNU Emacs Manual (Japanese Translation))

Appendix E Emacs 27 アンチニュース

時代に逆らって生きるユーザーのために、以下はEmacsバージョン27.2へのダウングレードに関する情報です。Emacs 28.2機能の不在による結果としての偉大なる単純さを、ぜひ堪能してください。

Lispプログラムのネイティブコンパイルサポート付きでEmacsをビルドできなくなりました。これはEmacsのビルドがより高速になり、ネイティブコンパイルに由来する問題: GCCとBinutilsがインストール済みという要件、eln-cacheディレクトリー管理の複雑性 — がすべて将来の歴史となったことを意味しています。これでEmacsバイトコンパイル済みコードの単純さと格式は、それ本来の自然な美しさへと復元されました。
たとえCairoが提供されていても、デフォルトでCairoとともにEmacsはビルドされなくなりました。更に以前のEmacsバージョンにおいて完全にHarfBuzzサポートを削除する準備のために、HarfBuzzを使用していない旨の警告も無くなりました。時を遡るにしたがい装飾的なテキストの形状化および表示はますます重要性を失っていきます。同じ理由により、ftxフォントバックエンドは再びEmacsの一部となりました。
Emacsは時を遡るにつれて必要となるであろうバージョン5.3以前のOpenBSDを再びサポートします。
GNU/LinuxでのSecure Computing filter(seccomp filter)のサポートを削除しました。過去の世界は現在よりはるかに安全なので、非道い被害妄想としてのみ説明可能なこれらの機能に関連した複雑性はもはや正当化されません。
あなたが向かわんとする場所においてUnicode 13.x以降のバージョン規格は未公開なので、EmacsはUnicode 13.xのサポートするようリバートされました。過去においてそれらを生成する者は居ないだろうという同様の理由により、‘emoji’スクリプトとEmojiシーケンス表示のサポートは削除されました。
モード固有コマンド、およびそれらを呼び出すM-S-xコマンドは削除されました。時を遡るにつれてEmacsのコマンドセットは縮小されるので、そのような適用可能コマンドのフィルタリングは邪魔になるだけです。
関連する関数のドキュメントグループ表示用システムを削除しました。それとともに、shortdoc-display-group、および*Help*バッファーでの対応する“See also”ボタンも削除しました。これにより特定の関数の検索が簡素化されるはずです。単に由緒正しき‘apropos’コマンドを使えばよいのです。
context-menu-modeと右マウスボタン押下でポップアップされるコンテキストメニューが削除されました。これは概してGUIポインティングデバイスによる暴虐からのEmacs(そして最終的にはコンピューターワールド全体)の解放、そしてテキストモードユーザーインターフェースがもつ簡潔さへの回帰に向けた小さな一歩です。鼠(訳注: マウスは鼠という意味ももつ)や諸々の齧歯類など根絶してしまいましょう!
結果を新たなウィンドウやフレームに表示するコマンドC-x 4 4とC-x 5 5は削除されました。わたしたちはコマンド実行前に新たにウィンドウやフレームを作成するほうがより簡単であり、新たなプレフィクスによる複雑さは不要だと強く確信しています。
フレーム切り替え時のアクティブミニバッファーは、本来あるべき完全に混乱した挙動になりました。ミニバッファーが新たに選択されたフレームに移動したり、移動しなかったり、エラーになることもあります。退屈で首尾一貫した結果を得るかわりに結果を予想することで、Emacsの使用がより楽しくなるでしょう。
圧縮されたモードラインの表示モードは削除されました。モードライン上に表示されるアイテムは常に同じ場所に表示されるようになり、もし充分なスペースがない場合には異なる位置に表示して混乱を招くかわりに、まったく表示されなくなりました。これでディスプレー上で特定のモードライン要素を見つけられるか再考する必要がなくなりました。
タブバーのフレームに固有な外観、tab-bar-formatオプション、C-x t n、C-x t N、C-x t M、C-x t Gなどのコマンド、タブバー上でのジェスチャーの多くを含む(ただし限定されない)タブバー関連の多数のコマンドとオプションを削除しました。わたしたちは過去のあるEmacsバージョンからタブバーのサポートを削除する予定であり、これはその方向に向けた一歩なのです。
“transient”な入力メソッドは削除されました。入力メソッドのオンオフの切り替えにはC-\を使用してください。これはEmacsのバージョン19において入力メソッドを完全に削除するための準備であり、時を遡るにつれてサポート対象となる入力メソッド数は減少するという事実に則しています。
わたしたちは由緒あるblink-matching-parenが充分以上の機能をもち、Emacsの過去バージョンの単純さにより適合すると考えたのでデフォルトで、show-paren-modeを無効にしました。これは遠い過去のEmacsにおいて色が削除される際に、必ずより良いものになるでしょう。
同じ理由により、インタラクティブなregexp検索におけるサブグループの鮮明なカラーによるハイライトをなくしました。
Emacs簡略化というわたしたちの永遠のクエストにしたがい、Ispellコマンドispell-comment-or-string-at-pointを削除しました。古き友であるispell-comments-and-stringsで充分なはずです。
Gnusのコマンドとオプションの多くは、Gnusの使用を不必要に複雑化するとみなして削除しました。これにはgnus-topic-display-predicate、gnus-process-mark-toggle、gnus-registry-register-all、gnus-paging-select-next、および他の多くが含まれます。同じ理由でnnselectバックエンドを削除しました。
多くの不必要な機能を削除するためにproject.elを再設計したので、必要不可欠な機能だけが残りました。わたしたちはEmacsの以前のバージョンにおいて、このパッケージの削除を計画していますが、まずは余計な機能の削除から開始することにしました。
Emacs 27.2ではコンピューターのメモリーとディスクの容量を削減して良好な状態に保つために、その他の多くの機能とファイルが削除されました。