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32.1 マーカーの概要

マーカーはバッファーとそのバッファー内の位置を指定します。マーカーは位置を要求する関数内において、整数と同じように位置を表すために使用することができます。その場合には、そのマーカーのバッファーは通常は無視されます。この方法で使用されるマーカーは、通常はその関数が処理するバッファー内の位置を指しますが、それは完全にプログラマーの責任です。位置についての完全な説明はPositionsを参照してください。

マーカーはマーカー位置(marker position)、マーカーバッファー(marker buffer)、挿入タイプ(insertion type)という3つの属性をもちます。マーカー位置はそのバッファー内の位置としてのマーカーと(その時点において)等しい整数です。しかしマーカー位置はマーカーの生存期間中に変化し得るものであり頻繁に変更されます。バッファー内でのテキストの挿入や削除によってマーカーは再配置されます。マーカー前後の2文字以外の場所で挿入や削除がおこなわれても、マーカー位置はその2文字間に留まるというのがこのアイデアです。再配置によってマーカーと等価な整数は変更されます。

マーカー位置周辺のテキストを削除することにより、そのマーカーは削除されたテキストの直前と直後にある文字の間に残されます。マーカー位置へのテキスト挿入では、マーカーは通常は新たなテキストの前か後のいずれかに配置されます。その挿入がinsert-before-markers (Insertionを参照)で行われたものでなければ、どちらに配置されるかはマーカーの挿入タイプ(Marker Insertion Typesを参照)に依存します。

バッファーでの挿入と削除では、すべてのマーカーをチェックして必要ならそれらを再配置しなければなりません。これは多数のマーカーをもつバッファーでの処理を低速にします。この理由によりそれ以上マーカーが不必要なことが確信できるなら、存在しない場所を指さないようにマーカーを設定することはよいアイデアといえるでしょう。それ以上アクセスされる可能性がないマーカーは最終的には削除されます(Garbage Collectionを参照)。

マーカー位置にたいして算術演算を行うことは一般的なので、それらの演算子のほとんど(+-を含む)が引数としてマーカーに渡すことができます。そのような場合でのマーカーはカレント位置を意味します。

以下ではマーカーの作成とセットを行ってポイントをマーカーに移動しています:

;; 最初はどこも指さない新たなマーカーを作成:
(setq m1 (make-marker))
     ⇒ #<marker in no buffer>

;; カレントバッファーの99と100番目の
;;   文字間を指すようm1をセット:
(set-marker m1 100)
     ⇒ #<marker at 100 in markers-ja.texi>

;; ここでバッファー先頭に1文字挿入:
(goto-char (point-min))
     ⇒ 1
(insert "Q")
     ⇒ nil

;; m1は適切に更新された
m1
     ⇒ #<marker at 101 in markers-ja.texi>

;; 同じ位置を指す2つのマーカーは
;;   equalだがeqに非ず
(setq m2 (copy-marker m1))
     ⇒ #<marker at 101 in markers-ja.texi>
(eq m1 m2)
     ⇒ nil
(equal m1 m2)
     ⇒ t

;; マーカー使用終了時、存在しない場所を指すようセット
(set-marker m1 nil)
     ⇒ #<marker in no buffer>